表面的な「問題行動」に騙されるな。医療現場を根本から変える「土壌」のマネジメント術
「なぜ、同じミスが繰り返されるのか?」「なぜ、ルールが守られないのか?」——医療現場の最前線で戦う管理者であれば、誰もが一度は抱く苦悩です。しかし、目の前で起きている「事象」だけをモグラ叩きのように対処していても、真の解決には至りません。本記事では、2026年3月12日に開催された「Waculbaゼミ」の講義内容をもとに、問題の根本である「土壌」を見極め、組織を再生に導くためのマネジメントの極意に迫ります。多忙な現場を預かるリーダー必読の、明日から使える「視点」をお届けします。
氷山モデルが暴く「見えない課題」対症療法からの脱却
事象の奥底に潜む「構造」と「文化」
病棟でのインシデントや、スタッフの好ましくない態度。これらはすべて、水面から突き出た氷山の一角である「できごと(Events)」に過ぎません 。講義では、この表面的な事象に対し「反応・火消し」をするだけでは不十分であることが強調されました 。真のマネジメントとは、水面下にある「これまで何が起きていたか(傾向やパターン)」を見出し、さらに「それはなぜか(構造や環境)」、「根本、本質は何か(文化や内的システム)」へと深く潜っていく思考プロセスにあります。
管理職にしか見えない景色がある
一般職の視点では、問題の根本原因に干渉することは難しく、疑問を持つことすら稀です。一方で、隠された情報を集め、環境を評価し、システム全体として捉えることができるのは、組織全体を見渡せる監督職・管理職の特権であり、果たすべき役割です。問題行動の裏にある「土壌」に気づくことこそが、組織改革の第一歩となります。

水面上の「できごと」から、深層にある「傾向やパターン」「構造や環境」「文化や内的システム」へと視座を下ろしていくプロセスを視覚的に示しています。
ます。多忙な現場を預かるリーダー必読の、明日から使える「視点」をお届けします。
スタッフは常に「合理的」である 個人の責任から環境の改善へ
「わざとミスをする人」はいない
問題が発生した際、私たちはつい「なぜルールを守らなかったのか?」と個人を責めてしまいがちです。しかし、「わざとミスをしてやろう」「患者さんに冷たくしてやろう」と思って出勤してくるスタッフはいません。人はその瞬間の、その環境・条件下においては「最も合理的(そうするしかなかった)」な行動をとっているのです。この「本人なりの合理性を探る」視点を持つことで、問い詰めではなく、原因の究明が可能になります。
「エース級のスタッフ」でも同じミスをしたか?
極めて実践的な思考法として提示されたのが、「もし、病棟で一番優秀なスタッフが全く同じ状況で最悪のコンディションだったとき、このミスは起きなかったか?」という問いです。もし可能性がゼロでないのなら、それは個人の資質ではなく、システムや環境のエラーです。原因を「本人由来」か「環境由来」か冷静に見極める眼力が、リーダーには求められます。

「本当にその人のせいなのかを疑う」というメッセージとともに、過酷な環境下では誰しもがミスを犯す可能性があるという現場のリアルな痛みを象徴しています。
現場を診断する4つのメス 「土壌」の掘り下げチェック
問題の震源地を特定するフレームワークでは、具体的にどのような「環境」を疑えばよいのでしょうか。ゼミでは、管理職が定期的に確認すべき「4つの土壌」リストが紹介されました。
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インフラ(物理的環境):情報、マニュアル、動線、時間は適切に確保されているか。
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ルール:権限と責任のバランスは取れているか。曖昧なグレーゾーンが存在していないか。
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風土(心理的安全性):「助けて」と素直に言える環境か。異論や提案が攻撃されないか。
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評価(承認):嫌な役回りや、目立たない貢献に対する適切な感謝や評価が存在するか。
例えば「会議で誰も意見を言わない」という事象一つをとっても、進行役の不備(ルール・インフラ)、反論が許されない権力差(風土)、提案者に仕事が丸投げされる構造(評価)など、様々な土壌の腐敗が隠れています 。これらを定期的に点検することが、健全な組織を作るためのメンテナンスとなります。

表面の事象を削り取り、強固な「土壌」を掘り起こして改善に向かう管理職の力強いアクション(掘り下げチェック)をイメージさせます。
現場の熱量と共鳴 参加者が得た「明日へのヒント」
他施設のリーダーとの対話が生む化学反応
本ゼミの大きな特徴は、知識のインプットに留まらない実践的なグループワークです。事後アンケートからは、現場のリーダーたちが抱えるリアルな葛藤と、それを乗り越えようとする熱意が痛いほど伝わってきました。
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多様な状況を想定したロールプレイングの価値:「上司役と部下役に分かれてのロールプレイングは面白かったです。キャラクターを4つの中から選んで行う方法は非常にやりやすかったです」といった声が挙がり、実践的な対話スキルの向上に貢献しました。
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心理的安全性への気づき:ある参加者は「自分が思っているより部下はミスを伝えるのに勇気がいる事。その分、『全て聞きますよ』の姿勢をわかりやすく作る必要がある」と、部下の心理的ハードルに深く共感し、自身の振る舞いを見直す決意を固めていました。
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他施設との有意義な交流:「他の施設の方と意見交換できてよかった」との声も複数寄せられ、自組織の枠を超えた課題共有が、リーダーたちの孤独を癒やし、新たな視点をもたらす場として機能していることがわかります。

「問題行動」という言葉は、しばしば真実を覆い隠す便利なベールとして使われます。しかし、医療の質と安全を守るためには、そのベールを剥ぎ取り、泥臭く「土壌」に手を入れる覚悟が必要です。本ゼミが提供した真の価値は、管理職に対して「スタッフを責める管理者」から「環境をデザインする変革者」へのマインドシフトを促した点にあります。 明日、あなたの目の前で部下がミスをしたとき。どうか一呼吸置き、「何がこの行動を合理的にさせたのか?」と自問してみてください。その高い視座と広い視野を持ったアプローチこそが、疲弊した医療現場を救い、スタッフの笑顔と患者の安全を守る確かな一歩となるはずです。
ワカさんのひとこと
ワカさん
※この記事は、2026年3月12日に行われたWaculbaゼミ「問題のコアを発掘しよう『問題行動の土壌』」から一部資料を参照しています。

