【採用難時代の処方箋】「やめない職場」は作れる。医療・介護現場を変革する3つのステップと「都市型マネジメント」
「需要は増え続けているのに、なぜ経営は苦しいのか?」「採用しても、すぐに辞めてしまうのはなぜか?」
現在、多くの医療・介護現場が直面しているこの矛盾は、もはや一過性の問題ではありません。迫り来る生産年齢人口の減少を前に、従来の「欠員が出たら採用する」という対症療法的なアプローチは限界を迎えています。今、医療機関・介護施設に求められているのは、高騰する採用コストに依存する体制からの脱却と、「今いる職員が定着し、自律的に成長する」強靭な組織風土への根本的な転換です。本記事では、人材採用難時代を勝ち抜くための具体的な3つのステップと、次世代のスタンダードとなる「都市型マネジメント」の神髄に迫ります。
「需要過多・供給不足」がもたらす経営圧迫と、採用コストの罠
1. 経営を蝕む「3つの不一致」
マクロ環境を見渡せば、日本全国で生産年齢人口(働き手)が減少し、高齢者人口(医療・介護需要)は増加の一途を辿っています。本来、需要過多の市場では経営は安定するはずですが、現実は異なります。その理由は、公定価格ゆえに物価高騰を価格転嫁できない「価格転嫁の問題」、縮小する市場で局地的な競争に消耗する「ポジショニングの問題」、そして人員不足により設備をフル稼働できず資本生産性が低下する「人員不足(設備稼働)の問題」が複雑に絡み合っているためです。
2. 「紹介手数料」という底なし沼からの脱却
特に深刻なのが、人員確保のための採用コスト高騰です。現在、直接応募以外の紹介就職は有料紹介が6割を占め、紹介手数料の総額は1,215億円に達しています。これは国民医療費と介護給付費の合計57兆円の0.2%に相当する莫大な金額です。例えば看護師の場合、平均紹介手数料は91.8万円にも上り、採用した人が「ミスマッチですぐに辞めてしまう」というトラブルも後を絶ちません。 私たちはここで、冷徹な問いを立てる必要があります。「同じ100万円を使うなら、紹介会社に払うべきか、それとも職員が入職したい・やめない職場づくりに投資すべきか?」。答えは火を見るより明らかです。

有料職業紹介事業への依存度(6:4の割合)と、職種別に莫大な金額が動いている現状を示すこのグラフは、医療機関が「採用コストの泥沼」に陥っている現状を象徴しています。
ステップ①:専門スキル(アプリ)を活かす「社会人基礎力(OS)」のアップデート
1. 「ムラ社会」から「都市型マネジメント」への進化
やめない職場を作る土台として、まず組織のマネジメントスタイルをアップデートしなければなりません。トップの絶対的な権力や暗黙の「掟・慣習」で縛る古典的な組織運営は、もはや現代の多様な価値観を持つ職員には通用しません。目指すべきは「都市型マネジメント」です。ビジョンで惹きつけ、権限を委譲し、職員一人ひとりが自律的に能力を発揮して幸せを高められる「豊かな社会(組織)」を構築することが、魅力的な人材を集め、定着させる鍵となります。
2. 医療職に不足しがちな「社会人スキル」の体系的教育
医療・介護現場には国家資格を持つ専門職が多く在籍しますが、教育が「専門領域の知識・スキル(テクニカルスキル)」に偏りがちです。例えるなら、高度な「アプリ(専門スキル)」を持っているのに、それを動かす土台となる「OS(社会人としての基礎スキルやキャリア意識)」が古いまま、ということです。互いを尊重し、医療経営の全体像を理解して経営参画できる人材を育てるには、この「OS」の教育が不可欠です。日本経営グループが提供する「Waculba(ワカルバ)」のような、マネジメント不足を解消するためのeラーニングツールを活用し、時間のない現場でも体系的に社会人スキルを学べる環境を整えることが第一歩です。
ステップ②:心理的安全性を生む「雑談」の戦略的導入
1. 雑談は「サボり」ではなく「インフラ」である
正しい社会人スキルを身につけた上で、次に着手すべきは「信頼関係を高める仕組み」です。ここで意外なキーワードとなるのが「雑談」です。調査によれば、一般社員の83%、部長職以上の93%が「雑談は必要だと思う」と回答しています。多忙な現場において、雑談は決して無駄な時間ではありません。
2. 組織の血流を改善し、業務改善の種をまく
雑談には「障害ストレッサーを排除する」「チームの結束力を高める」「新たな思考や発想につながる」「業務改善のきっかけになる」という強力な効果があります。何気ない会話が、互いの個性を尊重し合う土壌を作り、「ちょっといいですか?」という些細な相談のハードルを下げます。会議や朝礼後の15〜30分、あるいは休憩時間に、あえて意図的に「雑談機会」を設けることが、風通しの良い、職員が辞めない強靭な組織風土を築くのです。

雑談が単なるおしゃべりではなく、ストレッサーの排除から業務改善へと繋がる論理的なプロセス。「雑談=生産性向上」というロジックが、現在の組織作りにおいては重要です。
ステップ③:「わかった」を「できる」に変える行動変容の仕組み
1. インプットだけで終わらせない「自己効力感」の醸成
教育動画を見せ、雑談を促すだけでは、組織は変わりません。「行動変容」へと繋げるためには、職員の「自己効力感(やればできるという自信)」を高める仕掛けが必須です。自己効力感は、自らの達成経験や、他者の成功体験(代理経験)を聞くことなどで高まります。 例えば、Waculbaで動画を視聴(インプット)した後、「Waculbaゼミ」のようなオンライン研修で他院の職員と悩みを共有し、ロールプレイングを行う(アウトプット)。この「インプット×アウトプット」のサイクルを回すことで、初めて知識は現場での実践へと結びつきます。
2. 人事評価と連動し「6割の中間層」を動かす
さらに、これらの取り組みを「人事評価」と連動させ、成果測定とモニタリングを行うことが重要です。組織には「2-6-2の法則」があり、優秀な上位2割の層は自ら進んで学習し、評価も高くなります。真の組織改革とは、普通に働きがちな「中間層の6割」に「学習しよう、行動を変えよう」という文化を根付かせることです。システムを用いた透明性の高い人事評価により、努力が適正に報われる仕組みを作ることが、職員のエンゲージメントと定着率を劇的に引き上げます。
一部の優秀な人材に頼るのではなく、「6割の普通の人材」の底上げを図る仕組み(システム)こそが経営課題です。
「コスト」から「投資」への転換が、未来の医療を救う
採用難は、今後さらに加速します。もはや「人が足りないから補充する」という対症療法は通用しません。本セミナーが示唆している最も重要なメッセージは、「採用費という掛け捨てのコストを、職員教育と風土改革という未来への投資に切り替えよ」という力強いパラダイムシフトの提案です。
「都市型マネジメント」への移行、社会人基礎力(OS)の強化、雑談による心理的安全性の担保、そして自己効力感を高める行動変容の仕組み。これらは決して夢物語ではなく、明日から着手できる具体的なアクションです。現場の疲弊を嘆く前に、まずは組織の「土台(OS)」を見つめ直してみませんか。その決断が、あなたの病院・施設を「やめない職場」へと変え、地域医療の未来を明るく照らす第一歩となるはずです。
ワカさんのひとこと
ワカさん
※この記事は、2025年4月~6月に行われたセミナー「“やめない職場をつくる”人材採用難時代に向けた職場風土を変える教育システムのトレンド」から一部資料を参照しています。

