「教育という最長の近道」が病院を救う――能登・恵寿総合病院に学ぶ、VUCA時代を勝ち抜く組織変革の極意

医療教育ブログ

かつて、病院経営の改善といえば、コストカットや増収対策といった「外科的アプローチ」が主流でした。しかし、一時的に数字を整えても、数年後には元の状態に逆戻りしてしまう――そんなジレンマに多くの経営者が苦しんでいます。
今、私たちが向き合うべきは、単なる手法の改善ではなく、組織の「OS」の入れ替えです。石川県能登地方で、震災という未曾有の危機を乗り越えながら、常に日本の医療界の最先端を走り続ける社会医療法人財団董仙会(恵寿総合病院)。理事長補佐の神野正隆氏が語ったのは、経営改善の「特効薬」ではなく、「教育」という一見遠回りに見える、しかし確実な組織再生への近道でした。本記事は、全職員を経営参画へ導くマネジメント教育の本質を紐解きます。

現状維持は「退歩」である――VUCA時代に求められる危機感の正体

相対的な後退を許さない「進歩」への執念

董仙会には「進歩か退歩しかない」という強烈な哲学が根付いています。神野氏は、周囲が進化する中で現状を維持しようとすることは、相対的な「退歩」であると断言します。SPDやAI活用など、同院が常に日本初・地域初の試みを導入し続けられるのは、この危機感が組織の末端まで浸透しているからです。

部分最適の「改善」から、全体最適の「基盤強化」へ

不確実性が高い現代(VUCA時代)においては、従来の成功体験に基づく短期的な改善は通用しません。必要なのは、環境変化にしなやかに対応できる「組織の基礎体力」の向上です。個別のスキルアップ以上に、組織全体が共通の目的意識を持ち、同じ言語で対話できる基盤を整えることが、これからの病院経営の勝敗を分けます。

常に右肩上がりの進化を求められる医療環境において、現状に留まることがいかにリスクであるか。組織が「変わること」をデフォルト(標準)にするためのマインドセットを促す。

教育は「コスト」ではなく「未来への配当」である

総収益1%の投資がもたらす生産性革命

医療機関における人材育成費は、平均0.4%程度に留まります。しかし、神野氏は「本来は2%までかける価値がある」と説き、最低でも総収益の1%を教育に充てるべきだという信念を持っています。これは、教育を「支出」ではなく、将来の生産性向上を約束する「投資」と捉えているからです。

マネジメントは役職者の専有物ではない

恵寿総合病院では、事務職だけでなく医療職、さらには新卒から幹部まで全職員がマネジメントを学びます。多職種連携が不可欠な現代医療において、マネジメント能力は「全員が持つべき共通言語」であり、それが医療の質の向上、ひいては経営の安定に直結するという洞察は、多忙を極める現場にこそ強く響くはずです。

人件費や材料費と同等以上に、教育費が組織の持続可能性に寄与することを示す。数字に基づいた経営判断として、教育を位置づける重要性を強調する。

「3つのD」が可視化する、学びと組織の相関関係

DX・Design・Dataによる学習の「自分事化」

董仙会が掲げる「3つのD(DX, Design, Data)」。これを教育に適用することで、学びは劇的に進化します。eラーニングプラットフォーム「Waculba(ワカルバ)」を活用し、全職員の受講状況をデータ化。誰が、何を、どれだけ学んでいるかを可視化することで、教育を属人的なものから組織的なシステムへと昇華させています。

学習データは「エンゲージメントの鏡」

興味深いのは、学習データと人事評価、さらには離職リスクの相関です。トップメッセージの視聴率が低い部署や個人は、組織へのコミットメントが低下しているサインである可能性が高い。データは単なる成績表ではなく、組織のコンディションを把握し、早期に手を打つための「経営指標」となるのです。

前向きに学ぶ人材ほど高く評価されるという事実は、職員の学習意欲を刺激する。データに基づいた公平なマネジメントが、組織の透明性を高める。

トップの「熱量」と「スピード」が、現場の壁を突き破る

命令ではなく「物語」で動かす

新しいシステムの導入に際し、現場の反発は不可避です。神野氏は、自ら10分間の動画を撮影し、全職員に向けて「なぜこれが必要なのか」「乗り越えた先にどんな未来(業務負担の軽減や質の向上)があるのか」を自分の言葉で熱く語りました。トップ自らが語る「ビジョン」こそが、現場の心理的な障壁を崩す唯一の鍵となります。

決めたら速く、熱を冷まさない

「導入を検討しているうちに熱が冷める」のは最悪のシナリオです。神野氏は、意思決定後のスピード感を重視します。Waculbaのような既存の優れた仕組みを即座に活用し、四半期ごとに必修テーマを設けてモニタリングする。この「仕組み化」と「即時実行」の組み合わせが、教育を文化へと定着させます。

現場の納得感(腹落ち)を醸成するための、トップの振る舞いとプロセスの設計図。リーダーシップの本質が「伝えること」にある。

【総論】能登から日本の医療の未来を創る

今回の董仙会の取り組みが示したのは、教育とは単なる知識の伝達ではなく、「組織の魂を磨き続けるプロセス」であるということです。 能登という、高齢化と人口減少の最先端に位置する地域、そして震災の痛手。厳しい環境下で、神野氏は「人を育てることを諦めない」という強い決意を語りました。人が減り、先が見えない時代だからこそ、今いる職員一人ひとりの力を最大化するマネジメント力が、地域医療を支える最後の砦となります。

経営層の皆様、そして現場を支えるリーダーの皆様。今日から、教育を「隙間時間の作業」ではなく「経営の最優先事項」へと引き上げてください。トップの熱量が職員の心に火を灯し、その学びが現場の業務を、ひいては患者様の笑顔を変えていくはずです。日本の医療の未来は、あなたの「人を育てる覚悟」から始まります。

ワカさんのひとこと

ワカさんワカさん
外科的改善で一時的に凌いでも、組織の足腰が弱いとリバウンドしちゃう。神野先生の『1%の教育投資』という基準は、VUCA時代を生き残るための生存戦略のひとつですね。若手スタッフからみても、学ぶ環境がある病院は圧倒的に魅力的です!
 
※この記事は、2025年9月~12月に行われたセミナー「医療の未来は教育がつくる-恵寿総合病院のリアル×Waculbaで描く未来-」から一部資料を参照しています。

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