「正しいだけ」では人は動かない。医療現場のすれ違いを紐解く「大人の発達理論」と上級コミュニケーション
「なぜ、何度言っても伝わらないのか」「患者さんのためを思えば、自発的に動けるはずなのに」。医療現場や介護施設でマネジメントに携わる皆様なら、一度はこのような無力感を抱いたことがあるのではないでしょうか。
2026年6月9日に開催されたWaculbaゼミ「成人発達理論からみる上級コミュニケーション」では、Waculba事業部の竹谷隆司氏が登壇し、この永遠の課題に対する明確な解を提示しました。
本記事では、受講者の声も交えながら、知識やスキルの差ではなく「物事を捉える器」の違いから生じるコミュニケーションの断絶を防ぎ、チームを前進させるための実践的なアプローチを紐解きます。
なぜ、医療現場のコミュニケーションはすれ違うのか?
「見えている世界」の決定的な違い
医療従事者は総じて有能であり、それぞれの専門性や立場に基づいた強固な「正しさ」を持っています。しかし、コミュニケーションがうまくいかない根本的な原因は、相手に対する無理解と、自分自身に対する無理解にあります。人はそれぞれ「何に価値を置き、何を前提としているか」という認識の枠組みが異なります。自分がどのように他人と異なるのかを正確に認識することは難しく、その発想自体がないことも珍しくありません。
正論をぶつけるほど溝は深まる
自分の信念や仕事への誇りが強固であるほど、意見を否定された際の反発は大きくなります。意見の衝突を「自分自身の存在や能力への攻撃」として受け取ってしまうためです。その結果、コミュニケーションの目的が「勝ち負け」や「自己の正当性の証明」になってしまい、対話を重ねるごとに溝が深まってしまうのです。

医療現場によくある「正論のぶつけ合い」がなぜ問題解決に至らないのか、その構造的な欠陥を鋭く指摘。
マネジメントを変える「3つの大人の発達段階」
本ゼミの核心は、人間の認識の枠組みを「3つの発達段階」として捉える点にあります。
3つの段階とその特徴
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①利己的段階 (The Instrumental Mind):
自分の欲求・損得・明確なルールが判断基準となります。他者は「自分の目的を達成するための手段、または障害」として認識されます。 -
②他律的段階 (The Socialized Mind):
「周囲の期待・調和・帰属意識」が判断基準であり、全体の約7割がこの段階に該当するとされています。協調性が高く現場を支える屋台骨ですが、板挟みになると強いストレスを感じます。 -
③自律的段階 (The Self-Authoring Mind):
「自分なりの価値観・信念・システムの構築」が判断基準となります。推進力がありリーダー層に求められる段階ですが、時として周囲との摩擦を生むこともあります。
【重要】発達段階に「優劣」はない
ここで極めて重要なのは、発達段階は知能や人間としての価値、医療職としての優秀さを示すものではないという大前提です。段階が高いから優秀、低いから劣っているという評価指標ではありません。他律的段階の「ルールを正確に守る力」は現場に欠かせない要素です。また、強いプレッシャーや疲労などの高負荷に直面すると、一時的に発達段階が下がる「後退(フォールバック)」が生じることも理解しておく必要があります。
現場で活かす「相手に合わせた」コミュニケーション術
発達段階を理解した上で、明日から現場でどう振る舞うべきなのでしょうか。
段階別「刺さる」アプローチと「NG」行動
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利己的段階へ:
「明確な境界線の提示」と「具体的なメリットの提示」が有効です。「理念の押し付け」や「曖昧な裁量」を与えると、被害者意識を持ち防衛的になってしまいます。 -
他律的段階へ:
「共感・承認」と「心理的安全性の担保」が不可欠です。「孤独な決断の強要」や「客観的すぎる正論の追及」は、彼らにとって恐怖であり、メンタル不調に繋がる恐れがあります。 -
自律的段階へ:
「ビジョンの共有」と「裁量権の委譲」を行い、対等なパートナーとして接します。「マイクロマネジメント」や「権威や前例による思考停止の強要」は強烈な反発を招きます。
「べき論」を手放し、「できること」のカードを切る
マネジメントにおいて「医療従事者なら〇〇すべき」といった「べき論」は、単なる自分のルールの押し付けに過ぎません。人間は「正しいから」動くのではなく、「納得したから(安心したから・意味を感じたから)」動くのです。「相手が悪い」と裁くことは自傷行為であり、チームを前進させるためには「べき(Should)」を捨てて、「できること(Can)」のカードを切るマネジメントへの転換が必要です。

「正しいだけでは人は動かない」という本質を突きつけ、管理職の肩の荷を下ろしつつ、真のリーダーシップへと導くメッセージ。
受講者の声:深い気づきと「明日からの行動変容」
本ゼミに参加した医療・福祉の現場リーダーたちからは、非常に前向きで熱量の高いフィードバックが多数寄せられました。事後アンケートから、その反響の一部をご紹介します。
他施設の悩みから学ぶ、圧倒的な共感
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グループワークを通じて他施設のスタッフの悩みを聞くことができ、有意義な時間となったという声が寄せられました。
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職場には色々な年代のスタッフがいる中で、グループワークを通じて、他の参加者も四苦八苦しながら関わっていることがわかり、共感を得た参加者もいました。ゼミを行うことで「自分でも出来そうと思える感覚」である自己効力感が上昇し、現場実践度が高くなるというデータも裏付けられています。
「違い」を受け入れ、明日から実践する決意
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「見ている世界は人それぞれ違うので、コミュニケーションの中から自分なりに相手を見極める」という力強い行動目標が掲げられました。
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「自己中心的にならず、他人の状況もみれる監督職になる。部下をロボット扱いしない」と、自身のマネジメントスタイルを見つめ直す深い内省の声もありました。
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「正論をかざすばかりでなく、相手に寄り添って共感の姿勢を持って接していきたい」と、大人のコミュニケーションの本質を実践しようとする熱意がアンケートから溢れています。

参加者が自身の課題を共有し合い、他者の視点を取り入れることで、単なる知識の習得を超えた「自己効力感の向上」を生み出した象徴的なセッション。
【総論】相手を知り、己を知る。それが医療組織を強くする
本ゼミが提供した最大の価値は、コミュニケーションの不全を「個人の性格や能力の欠如」という矮小化された問題から、「人間の発達段階の違い」という構造的な視点へと引き上げたことです。「なんで分かってくれないのか」というイライラは、相手の発達段階を正しく見極め、それに翻訳した言葉を届けることで、確かな「協働」へと変わります。
医療現場は常にギリギリの緊張感の中で動いています。だからこそ、経営層や管理職の皆様が「べき論」を手放し、スタッフ一人ひとりの「見えている世界」に歩み寄ることが、これからの強靭な組織づくりの第一歩となるはずです。明日、職場のメンバーの顔を見たとき、少しだけ違う視点で声をかけてみませんか。
ワカさんのひとこと
ワカさん
※この記事は、2026年6月9日に行われたWaculbaゼミ「成人発達理論からみる上級コミュニケーション」から一部資料を参照しています。

