2040年の医療崩壊を防ぐ「適正配置と教育」の最前線――自走する組織への変革シナリオ

医療教育ブログ

 「看護師が足りない」「採用コストが経営を圧迫している」。全国の医療機関から悲鳴のような声が聞こえる今、私たちは抜本的な意識改革を迫られています。新たな地域医療構想がターゲットとする2040年は、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、全人口の39%を高齢者が占めるという未知の領域です。圧倒的な生産年齢人口の減少が予測される中、これまでの「人を増やして解決する」モデルは崩壊しました。本記事では、株式会社日本経営田野佑樹氏のセミナー内容を紐解き、厳しい未来を生き抜くための「職員の適正配置」と「次世代マネジメント教育」の具体策に迫ります

2040年に向けた医療需要と人材枯渇のリアル

「治す」から「治し、支える」へのパラダイムシフト

今後の医療需要は、医療・介護の複合ニーズを持つ85歳以上の高齢者が急増し、救急搬送と在宅医療の需要が同時に跳ね上がることが推計されています。しかし、病床利用率は低下傾向にあります。これは医療技術の高度化による平均在院日数の短縮が影響していますが、病院経営においては「治す医療」と「治し、支える医療」の役割分担を明確にし、地域完結型の提供体制を構築することが急務です

人材獲得競争と重くのしかかる「採用コスト」

需要が増加する一方で、生産人口の減少は高齢化よりも圧倒的なスピードで進行します。現場が最も頭を抱えているのが、人材獲得における莫大なコストです。

  • 直接応募以外の紹介就職は有料紹介が過半を占めます

  • 紹介手数料の総額は1,215億円に達し、これは国民医療費と介護給付費の合計の0.2%に相当します

  • 人材が確保できても、「求める能力を備えていない」「すぐに辞めてしまった」といったミスマッチやトラブルが多発しています

看護師や医師の採用にかかるコストが、いかに巨額であり、病院経営(給与費)を圧迫する致命的な要因となっているか…

病床稼働と適正配置のジレンマを打ち破る

「100%配置」という幻想からの脱却

「人員が足りない」という現場の声に対し、単純に人を増やすことは不可能です。病棟看護師の配置においては、満床時を前提とするのではなく、実際の「稼働ベース」の充足率を見極める必要があります

  • 夜勤時の必要配置は固定されるため、日勤時の配置を柔軟に考える必要があります

  • 100%ぴったりの配置では欠勤や有給取得に対応できないため、稼働ベースで120%程度の配置を目標とすることが現実的です

業務改善の切り札:「セル看護提供方式」の光と影

少ない人員で最大限のパフォーマンスを発揮するため、看護部の業務改善は急性期病院の必須テーマです。その解決策の一つが「セル看護提供方式」です

  • 業務開始時点では、重症度やケア量が均等になるよう患者が割り振られます

  • しかし、業務終了間際になると、突発的な対応や個人の力量によって業務量に差が生じます

  • 早く終わったスタッフがヘルプに入る構造上、「不公平感」を抱かせないための相互理解と連携(チームマネジメント)が不可欠となります

従来の動線や配置の無駄を省く新しい看護方式の構造で、現場の業務プロセス改善に向けた具体的なイメージを。

多様化する職員を守り、育てる「人事と教育」の仕組み

「辞めさせない」ための多様な働き方制度

人員不足を補うためには、夜勤専従の確保だけでなく、ライフステージに合わせた勤務形態を人事制度として組み込むことが不可欠です

  • 子育て中や親の介護など、勤務制限が必要な職員を「B職員」として定義し、段階的な働き方を提供します

  • 例えば「B職員-2」は夜勤や土日祝日の勤務制限を設け、A職員(正職員)の80%相当の評価・賞与とするなど、公平性と働きやすさを両立させます

キャリア採用者が直面する「社会人スキル」の壁

中小規模の病院ではキャリア採用者の割合が高く、離職率の高さが課題です。専門的なテクニカルスキルはあっても、育ってきた環境やルールが異なる多様な世代が入り混じるため、組織の摩擦が生じやすくなります

  • 相手を尊重して行動できる力や、変化に前向きに対応できる力が必要です

  • 部下を育成し、経営に参画できる視座を持つ人材を育てるための「社会人・組織マネジメントの教育」が強く求められています

専門スキル(アプリ)を活かすためには、その土台となる社会人基礎力やマインド(OS)のアップデートが不可欠である。

「Waculba」が切り拓く、自走する組織マネジメント

学びを「行動変容」に変えるハイブリッド教育

社会人スキルやマネジメント教育の最適解として提示されたのが、マネジメント関係の教育ツール「Waculba(ワカルバ)」です。eラーニングの導入は進んでいますが、単に見るだけでは現場は変わりません

  • Waculbaは、新入職員向けの「社会人スキル」から、管理職向けの「リーダーシップ」、幹部層向けの「病院経営」まで、階層別に体系化されたプログラムを提供します

  • 動画で知識をインプットした上で、「Waculbaゼミ」というオンライングループワークに参加することで、他者の成功体験やアウトプットの機会を得ます

  • このプロセスが自己効力感を高め、現場での「行動変容」を強力に後押しします

人事評価との連動が「学ぶ文化」を醸成する

導入した結果は、組織のパフォーマンスに明確に表れます。

  • 人事評価の高評価者は、必修以外の動画も主体的に視聴しており、評価結果と視聴時間には強い相関関係が見られました

  • 受講前後のアンケートでは、ゼミに参加することで「現場で実践できそうか」という自己効力感が全階層で有意に上昇(p<0.001)しています

  • 組織の6割を占める「普通の働きをする人材」に対し、いかに学習する文化を醸成するかが、生き残る組織の分水嶺となります

「学ぶこと」が直接的に職員の評価や組織への貢献度(アウトカム)に直結している。  

【総論】

2040年を見据えた地域医療の再編は、単なる病床数の調整ではありません。それは、枯渇する医療人材をいかに適正に配置し、彼らが自律的に成長できる土壌(OS)を作るかという「組織変革の戦い」です。トップダウンで指示を待つ「古典的家族型組織」から、職員一人ひとりが当事者意識を持つ「町型組織」への脱皮が求められています多額の採用コストを掛け捨てにするのではなく、今いる職員の定着と育成に「投資」すること。Waculbaのような仕組みを活用し、組織全体で自己効力感を高め合うサイクルを回すことこそが、未来の医療現場を守る唯一の希望です。明日からの経営会議で、ぜひ「私たちの病院の教育OSは最新か?」と問いかけてみてください。

ワカさんのひとこと

ワカさんワカさん
専門職としてのプライドが高い現場だからこそ、技術(アプリ)だけでなく、それを活かす人間力(OS)の教育が盲点になりがちなんですよね。多様性が増すこれからの時代、相互理解を深める仕組みへの投資は、最高の経営戦略だと思います!
 
※この記事は、2025年7月~9月に行われたセミナー「次の地域医療の提供体制を考える!職員の適正配置と教育支援の在り方」から一部資料を参照しています。

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