離職を防ぐ「人事評価」の真髄とは?現場と経営を繋ぐ、評価スキル再点検のススメ
人事評価は「単なる査定」ではありません。しかし、現実の医療現場では、評価への不満が貴重な人材の流出を招く引き金となっています。本記事では、日本経営 Waculba事業部の竹谷隆司氏(教育学 Ph.D)によるWaculbaゼミ9月号 人事評価スキル 再点検のススメの内容を紐解き、機能不全に陥りがちな人事評価を、スタッフの「自走」と「成長」を促す最強のマネジメントツールへと変革するための実践的アプローチをお伝えします。
「なぜ不満を生むのか?」人事評価が機能不全に陥る構造
やりがいを奪う「評価エラー」の実態
医療や介護の現場において、人事評価が原因でスタッフが退職に至るケースは深刻な課題となっています。スタッフが評価に対して不満を感じる最大の理由は「評価基準が不明確」であることであり、実に6割以上がこの点を問題視しています。さらに、不満理由の第2位として「評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出て、不公平である」という声も多く挙がっています。こうした不透明な評価体制は、スタッフに「自分は組織に認められていない」という疑念を抱かせ、離職の大きなトリガーとなります。適切なフィードバックが与えられないまま、低い評価だけを突きつけられると、彼らは自力で改善しようにも努力が報われないと感じ、原動力である「やりがい」を大きく削がれてしまうのです。
仕組みと現場の乖離が招く疲弊
現在の評価制度が抱えるもう一つの問題は、仕組みそのものが現場の実態に即していない点です。例えば、50項目にも及ぶ緻密なチェックリストを運用するような制度は、一見すると網羅的ですが、多忙を極める現場の上長にはかえって「適当な評価」を強いる結果を生み出してしまいます。また、定義が曖昧で具体的に何をすればいいのか分からない評価項目は、評価者と被評価者の双方に混乱をもたらし、評価ミスを誘発します。さらに、スタッフの能力開発を目的とした「ラダー」と、賞与などの査定に用いられる「人事考課シート」が連動しておらず、それぞれ別のポートフォリオや自己評価シートの提出を求められることで、現場が不必要に疲弊しているケースも散見されます。
最も深刻なのは、評価結果が本人に通知されず「どう判断されたのか分からない」というブラックボックス化であり、これが不公平感を増幅させています。

スタッフのモチベーションを削ぐ構造的な要因と、現在の評価制度が抱える現場のリアルな課題を象徴
評価の目的を再定義する:「査定」から「育成」へ
バイアスを排除し、公平な評価力を養う
本来あるべき人事評価の姿を取り戻すためには、まず評価者のスキル再点検が不可欠です。私たちが無意識に抱く「最近ミスをしたから全体的に低く見えてしまう」「自分と性格が合うから高く評価する」といった先入観(バイアス)による評価エラーを防ぐことが第一歩となります。明確な基準に基づき、主観や感情を排した「中立で公平・客観的」に評価を下すスキルを養うことが、組織全体に対する信頼を取り戻す基盤となります。
心理的安全性の確保と組織ベクトルの統一
公平な評価力を身につけた上で、次に重要となるのがスタッフの「納得感」と「心理的安全性」の担保です。心理的安全性には、「ここに居ていいんだ」という帰属の安全性から始まり、「それは違うと思います」と堂々と言える挑戦の安全性まで、4つの段階が存在します。評価者は一方的に結果を通達するのではなく、まずはスタッフの自己評価や本音に寄り添い、耳を傾けるコミュニケーションスキル(評価面談力)が求められます。そして、「組織の目指す方向」と「個人の行動」を一致させるために、スタッフが納得できる現実的かつ適切な目標を一緒に設定していく必要があります。
このような丁寧な目標設定と定期的な進捗フォローを通じて、スタッフは「自分が次に何を身につければいいのか」「どう頑張れば評価されるのか」を明確に理解し、自ら課題を見つけて成長を目指す「自走」状態へとシフトしていくのです。

現場が変わる「フィードバック」の具体技術
「ジャッジ」をやめ、3割の傾聴に徹する
面談の場において最も意識すべき変革は、評価者の基本姿勢です。スタッフを単にジャッジ(審査)し点数をつける場とするのではなく、「来期、より良く働いてもらうための作戦会議」へとスタンスを大きく転換する必要があります。そのためには、上長が一方的に話しすぎることを避け、「今日はざっくばらんに、困っていることや今後の希望を聞かせてほしい」と宣言し、心理的安全性を確保することが重要です。面談中は「3割の傾聴と質問」に徹して本人の自己評価を最後まで聞ききり、日頃「当たり前にやってくれていること」や「昨年より少しでも成長したこと」を意識的に見つけて承認する姿勢が、スタッフの心を開く鍵となります。
感情と事実を切り離す「SBIモデル」の活用と前向きな変換
改善を促すフィードバックの場面では、感情的な否定を避ける技術が必要です。人格や性格を非難するのではなく、状況(Situation)、行動(Behavior)、影響(Impact)という「具体的な事実」に焦点を当てる『SBIモデル』を活用することが強く推奨されます。たとえば、「なぜあんなミスをしたの?」と過去を責めて意欲を削ぐのではなく、「次に同じような状況が起きたら、どうすれば防げると思う?」と、未来に向けた解決策を共に探る質問へと変換するのです。厳しい評価を伝える際にも、「ここをこう改善できれば次はBに上がるよ。一緒に頑張ろう」といった前向きな言葉に置き換えることで、スタッフは次への活力を得て、明日からの業務に前向きに取り組むことができるようになります。

無意識に使ってしまいがちな「NGな伝え方」を、スタッフの成長を促す「ポジティブな言葉」へと変換する、極めて実践的で即効性のあるノウハウ
参加者の声が証明する「対話」と「共感」の力
他院との交流で見えた自院の強みと課題
ゼミの大きな醍醐味は、他法人の参加者とリアルな課題感を共有できる点にあります。グループワークを通じて、「皆同じように悩んでいるのだと安心した反面、自院の定量評価システムが実は分かりやすくて優れていることにも気づけた」という声が挙がるなど、他院の状況を知ることで、自組織の強みを客観的に再発見する貴重な機会となっていました。
明日から現場で実践する「行動変容」への熱意
学んだ知識を現場の行動へと昇華させる、参加者からの強い熱意も多く寄せられました。
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「まずは各スタッフの日頃の良い行動をメモし、日常的なフィードバックはもちろん、面談でもしっかり伝えていきたい」
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「前向きな言葉を使い、面談や評価を人材育成に繋げたい」
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「日頃からスタッフの行動や成長を具体的に把握し、公平で納得感のある評価に繋げていく」
評価システムという「仕組み」に「血を通わせる」のは、結局のところリーダーたちの毎日の小さな行動の積み重ねであることが、参加者の力強い決意から伝わってきます。

グループワークを通じて他法人の参加者と課題を共有し、新たな気づき(アイデア)を生み出すゼミの熱量ある対話
【総論】仕組みに血を通わせ、未来の医療現場を創る
人事評価とは、決してスタッフをランク付けし、切り捨てるためのものではありません。本ゼミが提示したのは、評価を「スタッフが自ら育つための羅針盤」へと再定義するアプローチです。基準の曖昧さや面談スキルの不足は、現場の不公平感を生み、貴重な人材の流出を招きます。しかし、評価者が「ジャッジする姿勢」を手放し、事実に基づいた前向きなフィードバックを実践することで、組織のベクトルと個人の成長は見事に一致します。
明日から、スタッフの「当たり前の貢献」に目を向けてみてください。ポジティブな言葉の選択と、寄り添う傾聴が、医療現場のチーム力を底上げし、より良い未来を切り拓く確かな第一歩となるはずです。
ワカさんのひとこと
ワカさん
※この記事は、2026年9月9日に行われたWaculbaゼミ「人事評価スキル 再点検のススメ」から一部資料を参照しています。

